ライムスターMummy-D、新作AL「ダンサブル」解説(後編)「梯子酒」は本当に危険。悪ふざけがすぎる

チャレンジングなレコーディングをする時は……

ライターM:今回のレコーディングでこだわった部分を教えてください。


前田(「ダンサブル」レコーディングエンジニア rey "reynolds” maeda from Nasoundra Palace Studio):自分は二人がスムーズにレコーディングできることを意識しました。例えば文章の校正で句読点を適切な位置に打つような、地味だけど大切なことをやる感じ。「痒いところに手が届く」というか。むしろ僕から二人に言えることは少ない。ブースに入った時点で「RHYMESTERのカッコいい曲」がもう出来上がっているというか。


Mummy-D:出来上がってはいる。だけどそれが音としてカッコいいかは、未だに録ってみないとわかんない。だから最初のレコーディングは本当に恥ずかしくて、できることなら1人でしたい(笑)。

日頃やってるようなヴァースとかなら平気だけど、サビとかは割と歌っぽいアプローチしたり、演歌っぽくしてみたり、わけわかんないこともするから。そういうチャレンジングなレコーディングをする時は大抵一杯やってからブースに入るかな(笑)。そうじゃないとキツい。前田くんは俺がボツにした変なサビをいっぱい聴いてるよ。


前田:Dさんはサビを3パターンくらい作ってくるんです。僕はかなりいろんなヒップホップのレコーディングに立ち会ってますけど、そんな人は他にいませんよ。考えるのすごく大変ですよね?


Mummy-D:心配性というか、とにかく「ダサいかもしれない」って可能性が怖いんだよね。だからB案を作るんだけど、それが考えすぎってこともあるから一応アホなノリのC案も……。みたいな感じだよ、いつも。3つ考えたうち2つ採用されることもあって、その場合は片方を大サビにしたり、つなぎに使ったりする。


前田:やはり3つもサビ候補があると、そこでいろんな議論が生まれるし、レコーディングしたものを重ねたりして、新しいバーションを試すこともできる。RHYMESTERのレコーディングはすごくクリエイティブだと思います。


ライターM:議論はどのように行われるんですか?


Mummy-D:基本的にはボーカルのことだから、俺と宇多さんでいろいろ話し合うよ。そこから前田くんに意見を聞いたりする。


ライターM:全然答えが出ないこともあるんですか?


Mummy-D:その場合はボツかな(笑)。


「やりすぎ」くらいまで練らないと面白くならない

ライターM:お話を聞いてると、レコーディングってすごく大変そうですね……。


Mummy-D:一般的なやり方ではないかもね。でも俺たちはそういうところまで来ちゃったんだよ。音楽的なこともある程度わかってきて、もう勢いだけでは作品が作れない。


ライターM:Dさんは以前「(音楽的な)事故が起きてないとヒップホップじゃない」と言っていましたが、レコーディングの時に何パターンもサビやヴァースを作っていくのは、その想定外のことを起こすためなんですか?


Mummy-D:それはあるね。「これカッコいいけど、前にやったアレみたいじゃない?」ってことが普通にあるんだよ。そういうのを「面白くない」って言葉で表現する。


ライターM:それでいくと、RHYMESTERがオールドスクールをやるって一番危ないというか。すごくカッチリとした面白くないものになる可能性があると思うんですよ。それなのに「ダンサブル」が面白いアルバムになったのは、どこがポイントだと思いますか?


前田:それは新しいことにたくさん挑戦してるからだと思います。


Mummy-D:例えば「梯子酒」。あの曲は家で飲みながら書いてたら、「梯子酒、梯子酒、飲ませてよ、もう少しだけ」ってサビが浮かんだのね。でもさ、あんな演歌みたいなフレーズがオッケーなわけないじゃん(笑)。でも一応スタジオに持ってってレコーディングしたんだよ。そしたら宇多さんが「いいじゃん」って。俺はやりすぎだと思ったんだけど、前田くんも面白いっていうから採用になった。


ライターM:そういえば、この曲はもともと違うタイトルだったんですよね?


Mummy-D:「大宴会」ね。サビも違った。「梯子酒」に関しては、本当に危険な橋を渡ってるのね。悪ふざけがすぎるというか。でもそれくらい思い切ったことしないと、フレッシュなものは俺らから生まれなくなってる。ちなみに「どんちゃん騒ぎ、胸騒ぎ(ハート)」って部分は「大宴会」の名残だね。あと3番ね。


ライターM:「喉が渇いたら何飲むの?」ってやつですね……。


Mummy-D:あのフレーズは、レコーディングが一段落した時、宇多さんとスタジオでゲラゲラ笑いながら話してる時に出て来たんだよ。「喉が渇いたら何飲むの?」「生ビール、生ビール」って(笑)。


ホッチ:最終的には8個になりましたけど、レコーディングの段階ではもっとたくさんありましたよね。


Mummy-D:あれがレコーディングで一番幸せな瞬間だった。でもね、俺はヒップホップもポップミュージックのように幾重もの展開があったり、カラフルだったりしてもいいと思ってるんだよ。楽しいほうがいいというか。「Don't Worry Be Happy」なんかはそういうのを意識しているから、突然わけわかんない展開になったりするの。今回のアルバムは「やっちゃえ!」って作った感じ。ヒップホップの王道が何かなんてわからない時代だから。オールドスクールっぽい曲が最初の方に入ってるけど、別に時代錯誤だと思われてもいいやって感じだった。


ライターM:前田さんにとってこのレコーディングで印象的な出来事を教えてください。


前田:出来事というのとはちょっと違いますけど、僕は今まで録ったラップ曲の中で「Future Is Born」が一番良い曲なんじゃないかって思っているんです。トラックは純粋なヒップホップとはちょっと違いますけど、他のヒップホップとは一線を画していますよ。

例えばヒップホップの歌詞は歌謡曲と違って歌い手のキャラクターが色濃く反映されるものですが、「Future Is Born」はヒップホップ的であるにも関わらず何の嫌味もない。基準点がとにかく高いんです。僕は普段あまり人に曲を勧めたりはしないんですけど、この曲には自信があって。とはいえ僕は録っただけなんですけど(笑)。この曲のレコーディングを経験できたことは本当にデカいです。


Mummy-D:ありがとうございます。でもね、これくらいやんないとみんなが良いって言ってくれないんだよ(笑)。


取材・文 宮崎敬太

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