破綻してないとヒップホップじゃない。トップクラスのトラックメイカーは意識的に事故を作る【ライムスターMummy-Dの、POP LIFE手帳 】


■結局、やるかやんないか。それしかない。年とってから失敗するよりも、若いうちに失敗した方がまだいい


ライターM 「好きなことを仕事にする」ことについてどう思いますか?


Mummy-D 難しいこと聞くね。


ライターM Dさんはやりたいことを仕事にできてると思うのですが、どういう部分が良いところですか?


Mummy-D そこは自己実現できたことかな。一番やりたいことをやれてるんだから。


ライターM 良くなかったことはありますか?


Mummy-D う~ん。もしかしたら自分が気付いてないだけで、もっと向いてる仕事があったかもしれないと考えることはある。

この歳になって同窓会とかに行くと、みんなけっこう偉くなっててさ。俺、いわゆる会社員になってたとしても、たぶんそこそこやれてたと思うんだよね。あの会社員の人が首から下げてる入館証とかちょっと憧れる。


編集O あんなの管理の象徴ですよ(笑)。


編集Y めちゃめちゃ恥ずかしいです(笑)。


ライターM 僕みたいな野良犬フリーライターからすると、むしろ羨ましいですけどね。会社に所属できる人だけが首から下げれる勲章というか。


Mummy-D カッケー、みたいな? 俺も入館証とは無縁の人生だったから、気持ちはちょっとわかるけど(笑)。まあ、「好き」を仕事にしたことが良かったのかはわからないけれど、幸せだとは思う。世の中のある俺の場合、ファンの皆さんがいて一定の人たちに支持されて、あと、ステージでの達成感や躍動感は何物にも代えがたい。だけど不安定な仕事だから良いことばかりでもないし、先のことを考えると超不安だよ。1人ならまだしも家族がいるからね。


編集O Dさんでもそんなふうに思われるんですね。


Mummy-D そりゃ思うさ。息子が「ラッパーになりたい」と言ったらお薦めはしないね。よね。「好き」を仕事にするのはいいと思うけど、「ラッパーはやめてください」って感じ(笑)。うまくいく確率がイジョーーーーーーに低い。し、がんばりに対しての報いもヒジョーーーーーーに見合わない。


編集Y Dさんが言うと言葉の重みが半端ないです(笑)。


Mummy-D ハイリスクローリターンですよ。


ライターM では、やりたいことがあるのにさまざまな事情があってやれなかった人。一歩踏み出せなかった人。勇気がなかったり、さまざまな事情があったり。夢を諦めたことに対して、心のどこかで後悔している人にDさんだったらどんな言葉をかけますか?


Mummy-D うーん。俺らはすごく不安定な世界にいるじゃない? さっきも言ったけど、俺らはすごく不安定な世界にいるじゃない?

しかも50近いから当然年齢的にやり直しも利かないわけで、俺らはもうマイクを握り続けるしかないんだよね。そういう意味では、だからむしろ若いうちに諦められた人が羨ましくもある。しかも1度挫折した人は強いから。


ライターM あと「あの時マイク握ってたら俺の人生変わってたかも……」という「可能性 a.k.a. 呪い」に取り憑かれてしまっている人もいると思います。「あの時、あの娘に告白してたら!」「あの時、ギターを諦めてなければ!」etc……。


Mummy-D 結局、やるかやんないか。それしかない。俺はむしろそういうタイプの人間だから、若いうちにラッパーをはじめたんだよ。年とってから失敗するよりも、若いうちに失敗した方がまだいいじゃん。


ライターM 意外ですね。


Mummy-D だってさ、ラッパーになりたい思いを抱えながら就職して、でも夢を諦めきれなくて30代で脱サラして、しかもラッパーとしても失敗したら目もあてらないじゃん(笑)。ラップなんて始めるのは簡単だからそういう人はやってみればいいんじゃないかな。やるかやんないか。それしかない。


ライターM たしかに人生の大半のことは、やるかやらないという部分につきますね。


Mummy-D 昔、「あしたをつかめーしごともくらしも」というEテレの番組でナレーションをしてたことがあるのね。若者の仕事を紹介する番組でさ。そこで、いろんな人たちの仕事に関するビデオを観たんだよ。それでそれをやっていて思ったのは、みんな一生懸命になって天職を探そうとするのね。


ライターM 自分に向いた仕事、ということですね。


Mummy-D うん、そう。でも天職っていうのは向こうから寄ってくるものだと思うんだよね。

ライターはどんどんライターっぽくなっていくし、製造業の人も一生懸命やっているとそれが板についてくる。料理人もそう。つまり最初は自分に向いてないと思ってた仕事でも、続けているとだんだんその仕事が天職になっていくものなんじゃないかな、と。


編集O 「自分にはこれが向いてる、あれは向いてない」とか考えがちなのかもしれませんね。


Mummy-D 俺もそうだったけど、若い時にはそもそも自分のことを知らないからね。すぐ自分探ししちゃうし。でも自分なんてものはその時点でまだないんだから、見つかるわけがなかったんだよ(笑)。

みんなどこかで必ず自分の現実と向き合わなくてはいけない時がくる。それを繰り返さないことには、自分探しなんかしたって何も見えてこないと思うな。


■ヒップホップは罪作り。破綻してないとヒップホップじゃない


ライターM 先日「EGOTOPIA」を改めて聴き直してたんですよ。


Mummy-D いいよ、聴かなくて(笑)。


ライターM あの作品は1995年発売だから、20年以上前の作品なんだけど、すでに「Mummy-Dのラップ」が出来上がってたんですよ。


Mummy-D そうかな~、あらゆる意味でつたないから今となっては聴きたくもないけどね(笑)。


ライターM 当時は今みたいに日本語ラップの方法論が確立されてないし、情報も全然なかった。そんな中で何をどうしたら、20年以上経った現在でも通用する強度のラップを作ることができたのかな、と驚いてしまったんですよ。


Mummy-D そんなそんな。当時は、自分が作ったものがダサすぎると思ってたし。


編集Y それは海外のヒップホップと比べてですか?


Mummy-D そうだね。恥ずかしかったよ。まあ「EGOTOPIA」の頃はそこまで悲観してなかったけど、まず声の出し方をわかってなかった。いま聴くとすげー張っちゃってるし。


ライターM 声の出し方とは?


Mummy-D 声をどう鳴らすかってこと。NASだったら普通に喋る感じでラップすればカッコいいかもしれないけど、俺だとそういうわけにはいかない(笑)。特に日本人の声帯は黒人と比べると軽い。だから自分の声をいい塩梅で味付けする努力をしてた。キャラ作りっていう部分もあるし。


ライターM 多分ラッパーのみなさんはそういうのって感覚でやってますよね?


Mummy-D みんな感覚だと思うよ。俺らも最初の頃はそんなにいろんなことを意識してはいなかったし。あと「韻を踏むとはなんぞや」「ヒップホップとはどういうことがかっこいいのか」みたいな、本当に基礎的の部分はいとうせいこうさんのような先輩たちが既に解明してくれてたからね。


ライターM 1990年に『スチャダラ大作戦』が出てるんですけど、この頃はいわゆる「スチャのラップ」じゃないんですよ。ライムスは93年に『俺に言わせりゃ』を出してて、この頃はまだ「Mummy-Dのラップ」にはなってなかった。スチャは『WILD FANCY ALLIANCE』を経て『5th wheel 2 the coach』で現在につながるフローが完成したような気がしていて。『EGOTOPIA』も95年だから、僕は93~95年くらいの期間にいわゆる「日本語ラップの基礎」が出来上がったのではないかと推測したんです。


Mummy-D 日本語は破裂音や濁音みたいなリズムが出る音がすごく少ないのね。密度が薄いというか。だからすごく考えて、リズミカルに言葉を連ねることは意識してたかな。

でもね、俺らのラップのスキルやフロウのレベルが加速度的に上がっていったのは、Das EFXとかFu Schnickensとかに影響を受けて三連譜の早口ラップを死ぬほどやりまくったからだと思う。それでやっと同業者から注目されるようになった。それが93年の1stアルバムを出したくらいの頃かな。


ライターM ではラップを音楽的に解析するようになったのはいつ頃からですか?


Mummy-D それはすごい最近。当時は拍とか小節とかも全然わかんなかったからね。自分でトラックを作るようになってようやくちょっとずつ理解するようになった。あとミュージシャンと一緒に曲作りするようになると、楽理(音楽理論)の用語を覚えないと意思の疎通ができなくてさ。例えば、「グリス」ってわかる?


編集Y 全然わかんないっすね。


Mummy-D グリッサンドの略なんだけど、ピアノの鍵盤を滑らせるように弾いて「トゥルルルル……」って音出すやつあんじゃん。ベースだったらフレットを滑らせて「トゥーーーーン」って鳴らすやつ。


ライターM 超普通にミュージシャンがやってるやつですね。


Mummy-D そうそう。知らないでしょ? でもそういうのをポンポン投げつけられるから、こっちが用語を覚えていかないと話になんないの。


ライターM なるほど。


Mummy-D でもあんまりそういうことに詳しくなりすぎないってことも大事で。知ってるとどんどん音楽がかっちりしてきちゃうから。


ライターM 「かっちりしすぎない」っていうのはいつも言ってますよね?


Mummy-D うん。破綻してないとヒップホップじゃないから。「そこでそれしないでしょ!?」ってことをするから、楽理をわかってる人はヒップホップの人とやるのが面白いんだと思うし。


ライターM それってすごく微妙なニュアンスの話ですよね。楽理をわかってないと音楽的には上にいけないし、かといってわかりすぎててもヒップホップとしてはつまんなくなっちゃう。


Mummy-D もうその辺がわかっちゃってるトップクラスのトラックメイカーたちは意識的に事故を作っていくんだよ。

そういう意味ではサンプリングってすごく事故が起こりやすいの。制作って意味ではサンプリングは楽なんだけど、ビジネスとして考えていくとお金がかかる。いまや贅沢品だからね。


編集Y KIRINJIとかとのコラボや、PUNPEEと組んで作ったりすると他人との共同作業だから、予期せぬ事故は比較的起こしやすいと思うんですよ。だけど、DさんとかKREVAさんみたいに1人で制作が完結してる人って、どうやって事故を起こすんですか?


Mummy-D クレさんはどうしてるんだろうね(笑)。俺に関していうと、最近は自分のスキルを信用しないようにしてる。例えば、サビの案を5つくらい考えてスタジオに行って、全部歌って一番フレッシュなやつを選ぶ、みたいな。


編集O 自分的に「これはナシかな?」って案が採用されたりするんですか。


Mummy-D そうなんだよ~。5分くらいでチョチョっと考えたやつが使われたり。俺が1週間くらいかけて、一生懸命考えたのは「いつもどおりで面白くないね」とか言われて。そういう時は「あの1週間を返してくれ」って落ち込むよ(笑)。


ライターM でもそれがヒップホップの面白いところでもあるっていう。


Mummy-D ヒップホップは罪作りですな。

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