【「ゲットダウン」パート2公開記念】KEN THE 390インタビュー、現在の日本のヒップホップシーンとリンクする部分とは

1970年代後半に米NYのサウス・ブロンクス地区で生まれたヒップホップ・カルチャーの黎明期を描く、Netflixのオリジナルドラマシリーズ『ゲットダウン』。その完結編となる<パート2>が4月7日から独占配信中だ。

ヒップホップという“発明”が産声を上げたブロンクスで、その渦中にいた若者たちの夢と青春を描く同シリーズについて、かつてないバブルに沸くヒップホップシーンを冷静に見つめつつ、自らもレーベルも運営し精力的に活動するラッパー、KEN THE 390に語っていただいた。


―Netflix『ゲットダウン』パート2の配信がスタートしましたが、まずKENさんが個人的に一番グッときたポイントを聞かせてください。


KEN THE 390 パート1の終わり方も続きが気になる感じでしたけど、パート2の配信までに少し期間が空いたので「どうなるのかな~」と思ってました。で、いざ始まって観てみたら最初のライブシーンが、かなり完成されたパフォーマンスで、すげえカッコよかったです。「キター!」みたいな感じで、かなり高まりましたね。


―『ゲットダウン』のライブシーンはラッパーから見ても燃えますか?

(ヒップホップチーム「The Get Down Brothers」のライブシーン)


KEN THE 390 燃えます! ガシガシ後ろでブレイク2枚使いしてて、MC4人がフォーメーションでやる感じとか、いま観てもめっちゃフレッシュですね。ていうか、あれ実際にやろうとしたらめちゃくちゃ難しいと思いますよ。

あのDJの音をアナログで実際に後ろでやろうとしたら、けっこうな練習量が必要だし、かなり難しいと思う。そういうとこも含めて、カッコいい! と思いました。


―70年代後半にしては、ラップがかなり今っぽいですよね。


KEN THE 390 ちょっとモダンですよね。そこは出来すぎてると思います(笑)。でも(DJが)使ってるネタとかは時代に合わせてますね。


―主要人物の中で、お気に入りのキャラクターは誰ですか?

(ジェイデン・スミス=ウィル・スミスの息子。俳優/歌手として活躍中)


KEN THE 390 僕はジェイデン・スミスが演じているディジーが好きですね。あの同性愛描写とかは“今の作品だな”と思いました。今までヒップホップ~ブラックカルチャーの作品では、ああいうセクシャリティの描き方は結構タブーに近いような扱い方をされてたと思ってて。

でも、今はフランク・オーシャンとかカミングアウトする人たちもいて、そこに対してすごく開かれてきてる。ラッパーも「関係ないでしょ」って発言する人たちが増えてきてる中で、こういうドラマの主要人物にディジーみたいなキャラがいるっていうのは“今っぽい”なと。風通しが良くなる感じがして、すごくいいなと思いましたね。


―同シリーズではリリックとラップ(ナレーション)をNY出身のラッパー・NASが監修していますが、ラッパー目線での聴きどころを教えてください。


KEN THE 390 僕も英語を直で分かって聴いてるわけじゃないですけど、歌詞の言い回しとかカッコいいフレーズがいっぱいありますよね。詩的な表現も多くて、すごくリリカルな雰囲気がある。特に後半のライブシーンになると、かなりメッセージ性が強くなってきてて、その流れの変化も良いなって。

最初の「パーティーでブチ上がろうぜ!」みたいな感じから、アフリカ・バンバータとかの影響を受けて、最後のほうはラップの内容もメッセージ性が強くなってきて。実際にリリースされたグランド・マスター・フラッシュ&フィリアス・ファイブのメッセージも、すごくストリート性が強い。リリース物としては後々出てくるものですけど、もともとはパーティーで盛り上がるためのものだったのが、徐々に“自分たちの状況を発信しなきゃ”っていう方向にマインドが変わっていく流れも、曲やライブの中で見えてくる感じがあって、すごくカッコよかったです。


―当時のバンバータの担っていた役割が分かりやすく描かれていましたね。


KEN THE 390 パート2になって「バンバータやっと出てきた!」と思いましたよ。ぜんぜん出てこないから、もうなかったことにされてるのかと思ってたけど(笑)、しっかりイイ役で出てきましたね。


―DJバトル/ラップバトルの描写はどうでしょう? 例えば「フリースタイルダンジョン」のファンにオススメできるポイントなどがあれば聞かせてください。


KEN THE 390 やっぱり(「~ダンジョン」の視聴者には)「何で戦わないといけないんだろう?」っていう“そもそも論”があると思うんです(笑)。でも、バトルもヒップホップのカルチャーの一部だと思ってて。それは、こういう(=当時のブロンクスの)過酷な状況の中でも、最終的には「バトルで決着つけようぜ」ってなる。それってすごく健全なメンタルというか。

当時のブロンクスは大変なことになってて、揉めごとが起きると、ヘタしたら拳銃を撃ち合っちゃうわけじゃないですか。だけど「じゃあダンスで決めればいいじゃん」「ラップで戦えばいいじゃん」っていう、音楽とかの“カルチャーの戦い”に変えていく。それはバンバータが提唱してることでもあるんですけど。

そんな“どうしようもない状況”があって、それでも自分たちで状況をより良くしていくために、バトルの方法も変えていく。そういうマインドとかカルチャーの根本がここにあるんですよね。だからバトル、ヒップホップは自分のメンツを賭けて戦うし、でも別に殴り合ったりはしない。そういうのって、やっぱりこういう前日譚が根っこにあるから成り立ってるというか。

じゃないと、現実のステージでやりあったら裏でも殴り合っちゃいそうじゃないですか。そうならないように表のステージでバトルするんだよね、って話で。『ゲットダウン』を観れば、バトルMCたちが心の根っこに持ってるものが分かるんじゃないかな。


―ヒップホップの“教科書”的な側面も強いですよね。


KEN THE 390 めっちゃそうだと思います。『ゲットダウン』を観ることによって「~ダンジョン」視聴者の“DJの見方”も変わってくれたらいいですね。彼らも2枚使いしてるじゃないですか、だから結局コレなんですよ(笑)

『ゲットダウン』は「レコードのイイところだけをずっと2枚でかけ続ける、それがヒップホップだ」っていう、そこがすごく分かりやすい。「このまま流しとくとダセー歌の部分が始まっちゃうから、またカッコいい部分に戻すんだ」って(笑)。ドラマの中でリアリティのある描かれ方をすると「ああ、そういうことだよね!」 って理解しやすい。それで始まった2枚使いの文化を、今のMCバトルでも実際やってるわけで。

例えば、マイリーン(同シリーズのヒロイン)のレコードが出たときに「なんだディスコの曲か~」って感じだったのに、ブレイクに入った瞬間に「うぉー!」「キタコレ!」ってなる。あれ超いいシーンだなと思ったんですよね。「やべえブレイク入ってんじゃん!」みたいな(笑)。


―グランドマスター・フラッシュ、アフリカ・バンバータ、クール・ハークといった実在のレジェンドたちを模したキャラクターが実名で、物語のキーマンとして随所に登場しますね。

KEN THE 390 グランドマスター・フラッシュとか超メンターで、あんなに神ががった人ではなかったと思いますけど(笑)。やっぱり面白かったですね、スクラッチしながらガシガシ2枚使うっていうのも彼ならではって感じで。

いい部分をループすることを発明したのはクール・ハークと言われてますけど、スクラッチはグランドマスター・フラッシュの親族が発明して、それを彼らがガシガシ使って盛り上げていった。だからゲットダウン・ブラザーズ(劇中で主人公たちが結成するグループ)の師匠としての立ち位置はフラッシュでいいんじゃないかなと思いましたね。あの“クレヨン”のくだりとか、自分も最初は全然わからなかったですよ(笑)。僕らの時代には小さなシールでしたよね。


―映像にも、当時のブロンクスの荒廃した感じがよく出ていると思います。


KEN THE 390 当時のニュース映像とかがバンバン入ってくるから、リアリティがすごい保たれてる感じがある。当時のブロンクスの状況とかって、僕らも本とか、それこそ『ワイルド・スタイル』(『WILD STYLE』:1983年に公開されヒップホップ文化を世界に広めた映画)とかで観て、知識としては入ってきてたけど。実際の瓦礫とか放火された後の感じとか、ホントにNYにこんなとこがあんの!? みたいなレベルだし(笑)。でも、ヒップホップってこういうところから生まれてきたんだよなって、リアリティをもって確認させられた映像で、いい意味で衝撃的でしたね。


―同シリーズは、『ムーラン・ルージュ』やリメイク版『華麗なるギャツビー』などで知られるバズ・ラーマンが制作/監督を務めています。

(バズ・ラーマン(右)とグランドマスター・フラッシュ(左))


KEN THE 390 『~キャッツビー』がスゴく好きで、あれジェイ・Zが音楽を担当してるじゃないですか。ヒップホップが超カッコよく鳴ってるな、とは思ってたんですよね。

パート2で顕著になりますけど、ヒップホップがディスコに対しての“カウンター”として成立してた、みたいな。歴史の流れとして、ディスコからヒップホップへ自然に流行が移っていった感じがあるけど、当時流行っていたディスコに対して「この音楽じゃ満足できない!」とか「ストリートの奴らが好きなのは、もっとタフで踊れる音楽だ!」っていう、ちゃんとカウンターとして位置している感じが描かれている気がして。だからディスコ勢と対峙するシーンとかもすごくカッコいい。

やっぱりディスコに比べてタフに聴こえるし、当時の荒くれ者たちが「俺たちが好きな音楽はこっちだぜ!」ってなる感じとか、すごく分かるな~と思って。そういう描かれ方って、今まではあんまり見たことがなかったので、そこが結構フレッシュですよね。


―現在の日本のヒップホップシーンとリンクする部分や、同作の主人公たちに感情移入できるのはどんな部分でしょう?

(The Get Down BrothersとNotorious 3のライブバトルシーン)


KEN THE 390 少年たちが暗中模索しながらも駆け上がっていくストーリーですよね。現行のアメリカのヒップホップだけ見てると“憧れ”しかなくて、どうやってあのポジションまで行けばいいのか全く分からないと思うんですよ(笑)。例えば、今のNYシーンでA$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)を見て、どうやったらああいう風になれるのかなんて、絶対に分からないじゃないですか(笑)

だけど、この『ゲットダウン』の時代には周りや親に「くだらねえ言葉遊び」とかって言われてて。今ラップやってたりバトル始めた子とかも、家で練習してて親にバレようものなら「またくだらないことを……」とか、絶対言われてると思うんですよ(笑)。

そこに対して、でも現場に行けば仲間がいて、理解してくれる奴らがいて、規模は大きくないけど、そこでみんなで腕を磨いて、それがすごく楽しくて……みたいな構図を見れば、日本の若い子たちも『ゲットダウン』に共感できるところはいっぱいあるし、こういう風にやりたい! って素直に思えるんじゃないかなって。


―Netflixには『ゲットダウン』以外にもHIPHOP関連のドラマやドキュメンタリー作品が豊富なんですが、そういった作品を観ると、より理解が深まって楽しめるのではと思います。


KEN THE 390 そうですね、僕も『ヒップホップ・エボリューション』とか観たんですが、『ゲットダウン』は色んなポイントが史実に基づいてるので、より補完されるところがあるなぁと思ったり。

あと、ブックス(主人公のエゼキエル)がちょっとインテリっていう設定も良いですよね。例えばN.W.A.のアイス・キューブって、実はインテリじゃないですか。もう“ド不良”なイメージのN.W.A.だけど、そこに学のあるキューブみたいな奴がいて、歌詞を書いてて、っていう。そういうところも構造としてリアリティがあっていいなと思って。


―『ゲットダウン』はシーズン2でひとまず完結ですが、もしパート3が制作されたら、どんな展開に期待しますか?

KEN THE 390 この後、シュガーヒル・ギャングが出てくるみたいな流れでしたけど、彼らにも色々な逸話がありますよね。レコード会社が「ヒップホップは金になるっぽいぞ」みたいな感じで適当につまんできて……みたいな。そこに対するフッドの怒りはハンパないと思うし、でもシュガーヒル・ギャングはメチャクチャ売れるじゃないですか(笑)。その対立が描かれたりすれば、まだまだ面白くなりそうですよね。

(※シュガーヒル・ギャングが1979年にリリースしたシングル「ラッパーズ・ディライト」は800万枚を売り上げたと言われている)

しかも、まだヒップホップがカルチャーとして出来上がったくらいの時代なので、それが広がっていくところで、もうひとつ上の成り上がりストーリーみたいなものも観てみたいなって。ナレーションのNASが自分の話を振り返るみたいな感じでラップしてるし、この先が描かれるとしたらサクセスストーリー的な……まあ内容が変わっちゃいそうだけど(笑)、あってもおかしくないですよね。

続きを見る