ライムスターMummy-D、「ヒップホップには“ヒップホップゲーム”と“ヒップホップミュージック”がある」【POP LIFE手帳 #11】

■今更聞けないヒップホップ基礎知識編「ヒップホップゲームって何?」

――先日登場してくれた編集Yくんとトラップについて話してたんですよ。彼に「トラップって、なんでみんな似たようなラップをするの?」って質問したんです。僕はけっこうトラック重視でヒップホップを聴いてた部分もあったし、英語がわからないから文章的な面白さも理解できない。そしたらYくんは「トラップってみんなあえて同じフロウを使って、その中で自分がいかにヤバイことをできるか競い合う音楽なんですよ」って教えてくれて。

Mummy-D なるほど。


――ヒップホップゲーム=コンペティション(競争)ということですよね? トラップは今ヒットチャートでも話題だから、それもわかるんですよ。でもチャートとは別にアンチコンみたいに音楽的にヒップホップを追求している人もいますよね。その場合、「ヒップホップゲーム」の中ではどういう立ち位置になるんですか?

Mummy-D ヒップホップには「ヒップホップゲーム」と「ヒップホップミュージック」があると俺は思う。

みんなどちらの要素も持っていて、その比率が各々の個性になっているんだよ。「ゲーム」の要素が強い人たちは勝ち上がることに重きを置いている。ゲットーから抜け出すことや、大金をつかむことへの意識が強い。

一方「ミュージック」の要素が強い人たちは音楽的に良いものを作りたい、ブラッシュアップしていきたいっていうスタンスだと思うんだ。その割合でいろいろ変わってくるんだよ。

「ゲーム」と「ミュージック」を縦軸と横軸に据えて、各アーティストを配置していくといろんなところにいろんなアーティストがいるっていうことになるでしょ。


――アメリカだと元ドラッグディーラーのラッパーが大手レコード会社の社長になったりして、それこそ「ゲーム」している感じがするんだけど、日本にはまだそういう人がいないし、ラッパーがチャートを席巻することも少ないから、「ヒップホップゲーム」というものがいまいち実感しづらいんですよね。

Mummy-D 「ヒップホップゲーム」って言うとかっこいいからみんな使ってるだけだと思うよ。

アメリカにはヒップホップでビジネス的にも成功する道筋があるから、生きていくのが大変な人たちがラップをやるとどうしても「ゲーム」寄りになっていく。「ゲーム」のラッパーたちが同じようなビートで戦うのは、クラブでDJにかけてもらうため。クラブでかかる流行りの曲と似たタイプの曲じゃないと、DJプレイの流れを阻害しちゃうでしょ。流れから逸脱した曲だと、DJが自分のプレイに取り入れづらい。特にテンポやドラムパターン。その制約は本当に大きい。


――なるほど。アメリカではクラブでのヒットがチャート入りへの近道だから。同じフロウで競うのにも理由があるんですね。

Mummy-D うん。だからもちろんオリジナリティは必要なんだけど、その制約(流行)の範囲内でいかに自分をアピールするかってことなんだよ。

今はサウスの流れからトラップがブームになっているから、ブレイクビーツはみんな使わない。最近はリバイバルしてるTR-808っていうローランドのドラムマシーンで、「ブーンブーン」って低音と、硬いクラップ音、刻まれたスネアやハイハットを入れる。もちろんそこにミュージシャンなんかは入れたりしない。一方「ミュージック」の人たちは自分の好きな音楽スタイルで割とタイムレスな音楽をやっている。


――日本だとトラップがマイナーな音楽だから、なかなかその辺の背景がわかりづらいですね。

Mummy-D ヒップホップゲームの軸はヒットチャートだけじゃないんだよね。トラップは「あの遅いスッカスカなビートにお前はどれだけカッコいいラップを乗せられるの?」ってことを競う遊びなわけ。そういうゲームなんだよ。

オーセンティックなヒップホップはBPM90くらい。けど今流行りのトラップはBPM60くらいですごく遅い。そこで普通にラップを乗せちゃうと間延びしてしょうがないから、倍のテンポ、つまりBPM120を感じながらラップするんだよ。遅いビートの上で早くラップするから、言葉をめちゃ詰め込んで早口でラップしたり、三連符を使って文章をぶった切るフロウができたりする。これはすごく英語の特性に適してる。

すこし前も少し話したけど日本語はすごく音節数を食う言語なの。だからトラップを日本語でやる場合、文章的な理屈のおもしろさよりも、単語だけで面白くさせたり、言葉の組み合わせでハッとさせるほうがやりやすい。


――DJ RYOW「DON'T STOP REMIX feat.DJ TY-KOH, KOHH, DIZZLE & SOCKS」でKOHHが「ナマモノは寿司」とラップしたのを聴いて、当時衝撃を受けました(笑)。

Mummy-D 一聴すると「なんじゃそりゃ~!」みたいなね(笑)。日本のラッパーはみんなすごく試行錯誤してると思う。でもUSのラッパーもBPM90くらいのオーセンティックなビートでラップする人は、流れるようなフロウで文章としてストーリーテリングをしてたりするんだよね。

つまりビートによって乗せるラップの特性が変わってくるってことだよ。


――前にDさんが「(ブレイクダンスでは)ナイフを捨てて不良同士がダンスのスタイルを見せ合って戦うわけ。スタイルウォーズだよ」と一緒ですね。

Mummy-D そうそう。ブレイクダンスもトラップも技の見せ合い。これは余談だけど、トラップはBPM60の倍でBPM120くらいでラップしているって言ったじゃない? あれってハウスやロックと同じくらいのテンポなんだよ。

だから最近のヒップホップは縦ノリになってるんだよね。俺もそんなに現場に行ってないから偉そうに言えないけど。でも現代の若者にとってトラップでブンブン鳴ってるベースやキックは、ロック好き世代にとってのディストーションギターと一緒なんだよね。


――実は先日知人にも「トラップってなんなんですかね?」って訊いたら「あれは縦乗りのヘッドバンギングな音楽だと思う」といわれたとこだったんですよ。

Mummy-D マジで? 確かにKOHHはライブでシャウトしてるもんね。

マネージャーH 最近はヒップホップのライブでモッシュっぽいうねりができたりしますよね。あれは昔とは全然違うものだと感じますね。

Mummy-D ヒップホップは本当に多様性がある音楽だから、それを丸ごと楽しむのがまた面白いわけよ。


■Dさんにお悩みの相談コーナー

――前回に引き続き今回も読者の相談コーナーです。今回は神奈川県在住の「腹囲95cm、体重75kg」(40歳)さんから。「痩せたいです」。

Mummy-D ストレートなペンネームで、ストレートな相談だね(笑)。


――これ、僕の相談なんです……。Dさんが太りやすいと以前仰ってたので、どさくさに紛れて相談しちゃおうと思いまして。

Mummy-D っていうか腹回り95cmもあんのっ!? 身長は?


――168cmです。

Mummy-D 君は痩せるための努力を何もしてないでしょ? そういう人は何をやってもある程度の効果が出ると思うよ。ジム行きなよ。


――お金なくて。

Mummy-D じゃあ、一駅分歩くとか。ちょっとした運動でいいんだよ。

編集O 渋谷行く時に代官山で降りて歩いたりすればいいじゃないスかっ!

Mummy-D ただね、太りやすい人の体はすぐに運動に慣れちゃうんだよ。そうすると効果が出なくなる。


――食事はどうされてますか? 僕は結構コンビニ飯で。

Mummy-D 食事は気にしてないんだけど、もうおじさんだからそんなに味の濃いものを食べないんだよね。コンビニではどんなの買うの?


――唐揚げ焼きそばとか。あと飲み物とスナック、アイス、パン……みたいな感じで、だいたい3000円分くらいは1回の来店で買いますね。

編集O それはヤバくないスか?

Mummy-D 3000円は使いすぎだよ!


――1500円くらいまで絞ればいいですかね?

Mummy-D 1000円以下でしょ、普通。あと味覚が子供すぎ(笑)。っていうか体重とかより気にすべきは病気でしょ。成人病とか他人事じゃないからね。そんな生活してたらヤバいよ、絶対。


――確かに最近免疫力が低下してる感じはしてます。先日四十肩っぽくなっちゃって整体に行ったら「運動をまったくしてない体ですね」って言われちゃいました。

Mummy-D プール行けばいいじゃん。自治体が運営してるとこなら安いよ。


――泳げないんですよ。

Mummy-D 知るか!そもそもお金ないからジムに行けないって言ってる割に、コンビニで毎日3000円使ってるんでしょ? ちゃんとプランを選べば月1万円以下のもあるし。実はゴールドジムが結構安いらしいよ。

編集O いきなり「ザッツ・ボディビル」みたいな究極のジムに行っちゃうのはヤバいッスね(笑)。


――実は結構真面目にCMで話題の肉体改造系ジムに行こうかと思ってたんですよ。

Mummy-D あ~、でもあんまりハードなやつは続けられないと思うよ。一時的には痩せても、結局リバウンドしちゃうと思う。あと俺が行ってるジムみたいに、おじいちゃんおばあちゃんの集会所みたいなとこはダメ。雰囲気って結構大事なんだよ。ゴールドジムには体がデカくなりすぎて、人としておかしな形になっちゃってる人がいっぱいいるでしょ。そういう人たちの覇気を感じながらやるのはマジでいいかもよ。


――次は埼玉在住の「頭洗うのめんどくさい(女)」(年齢非公表)さんから。「物欲を抑えるにはどうすればいいですか?」というものです。

Mummy-D 普遍的な問題だよね。


――この方はスマホでZOZOTOWNみたいなファッション系通販サイトをしょっちゅうチェックしてるそうです。最初は気に入ったものを買い物かごに入れたり出したりしてるだけらしいんですが、徐々にテンションが上がってしまって結局買ってしまう、という。

Mummy-D その人は何かに満たされてないんだろうね。


――アンサーは「買い物よりオ○ニーしろ」ですかね?

編集O 北方謙三イズム!

Mummy-D つまんないアンサーだな。

編集O ちょっと買い物依存症っぽいんスね。

Mummy-D 俺も物欲はあるけど、家庭ができてからはめちゃくちゃ買ったりはしなくなったね。昔は楽器とかアホみたいに買ってて。


――DJ JINさんはRHYMESTERのツアーで販売された冊子「風とラップ」にて「システム a.k.a. 嫁の管理下に置かれる」と書いていましたが、どういうことなんですか?

マネージャーH 家に置けるレコードの枚数が決まってるらしいんですよ。だから新しいレコードが増えたら、優先順位の低いものから売ってるみたいですね。


――それ、名案ですね!

Mummy-D そうなると売れるものを買わないとね。


――安物買いの銭失いも回避できますし。

Mummy-D それか1回極めちゃうとか。


――どういうことですか?

Mummy-D いききっちゃうっていう。アホになってしまう。俺は独身時代に1回すっごい高い時計を1個買ったりしたし。中途半端なものじゃなくて、象徴的な何かを買っちゃうっていう。ちなみにその時計はもう壊れたけど。

編集O 危険なアドバイスですね(笑)。


■ライムスターMummy-DのPOP LIFE手帳とは

RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特の発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。

この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?

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