ライムスターMummy-D「カルテットは民放のあんな時間帯で超イルなことやってる」 【POP LIFE手帳 #10】

■民放のあんな時間帯で超イルなことやってる

ーーDさんが出演しているドラマ「カルテット」観ましたよ。

編集O 俺、普段ドラマとか全然見ないんスよ。でもDさんが出るから「カルテット」は1話目から観てて。最初なかなか出てこないからキレそうになりましたっ!

Mummy-D だって主要キャストじゃないもん(笑)。でも脚本家・坂元裕二さんが俺がドラマに出ることを喜んでくれて、出番を増やしてくれたみたいよ。

編集O あの出かたはかっこよかったッス! 俺の怒りも収まりましたっ! あの役はアテ書きなんですか?

Mummy-D たぶんそうだと思うよ。

坂元さんが文部科学省のウェブムービー「Dear Father」を観て、今回オファーしてくれたみたい。


ーー「カルテット」はすごい面白いですね。松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平というキャストなんで普通のラブコメかと思ったら、全然普通じゃない。

Mummy-D 脚本がイルすぎて俺も引いたもん(笑)。

1話目とか唐揚げにレモンをかけるか否かですごい話を引っ張るじゃん。坂元さんはもう大御所の脚本家だけどすごく自由に書いてるなって感じた。

編集O 「東京ラブストーリー」の脚本を書いた人なんスよね。最近だと「最高の離婚」や「問題のあるレストラン」とか。

Mummy-D でもイル(笑)。もうね、登場人物の名前がおかしい。松たか子さんの役名は巻真紀(まきまき)だし。本当に勝手。

そういう意味ではすごく刺激を受けたな。俺だって普段あんな自由にラップ書かない。しかも「カルテット」は民放で、あんなすごい時間帯で放送しているわけじゃん。今後は自分の作品でももっと攻めたいね。


ーー主要キャストはみんなすごい役者ですよね。

Mummy-D 彼らみたいなセリフの掛け合いは演技がうまい人じゃないと無理だよ。セリフのニュアンスが微妙だから、当意即妙なタイミングや間を持ってる人じゃないと成立しないと思う。俺は4話目くらいにちゃんと出るよ。

高橋一生くん(家森諭高役)をどんどん追い詰める。でもただ怖いだけの役じゃないんだよ。アポロチョコ食べてたりして愛嬌がある。

編集O Dさんが登場する時、車で杉山清貴がかかってますよねっ?(笑)

Mummy-D 「どういう設定なんだ!?」っていう。


ーー役作りはしたんですか?

Mummy-D いやいや、スタッフも最初から俺にそんな高度なことを求めてないよ。あとヘラヘラしてたほうが怖いからとも言われてたし。


ーードラマの現場はどんな感じなんですか?

Mummy-D 今回が初めてじゃないからだいぶ慣れてきたよ。以前「トランジットガールズ」(2015年11月 ~ 12月にフジテレビで放送されたTVドラマ。主人公の父親・葉山圭吾を演じた)というドラマに出た時は現場の雰囲気に飲まれちゃって。そもそもどこまでがリハーサルで、どこからカメラが回ってるのかもわかんないんだよね。「はいっ、じゃあドライいきまーす」とか言われても「ドライ」がわかんないっていう。


ーー「ドライ」?

Mummy-D ドライリハーサルってことらしい。

マネージャーH カメラの位置とかを確認するためのリハーサルみたいです。実は俺らもよくわかってないんですよ(笑)。

Mummy-D そう、全然わかってないのよ。そうすると「音声はどうなってるんだ?」とか俺が心配する必要のないとこまで気になってきちゃったりして。わからなすぎて、俺1人だけリハーサルも全部本気でやってたんだよね。ちなみにドライの時ってカメラ回ってないのよ。なのに俺だけすごいテンションで演技してて(笑)。

編集O それは結構大変スねっ!

Mummy-D そうなんだよ。「ゲームの<規則>」(2015年1月にテレビ朝日で放送されたテレビドラマ。詐欺組織ボス・藤田敏也を演じた)に出てた俳優・光石研さんに相談してみた。「どうすればいいですか?」って。そしたら「いいんじゃない、それで」って。

編集O なんだそれっ!全然アドバイスになってねえ!

Mummy-D そもそも俺は役者じゃないし勉強もしてない。っていうかキャスティングしたのも俺じゃないって(笑)。そう思えるようになってきだいぶ楽になったね。


ーー真剣に考えるれば考えるほど、ドツボにはまるんですね。

Mummy-D 撮影現場でモジモジしてたらみんなに迷惑かけるじゃん。だからある程度尊大でいたほうがいいんだよ。「大根に決まってんじゃん、だってラッパーだもん」みたいな(笑)。それで言われた通りに演技するのよ。俺なんて真面目だから真剣に考えると場の空気に飲まれて「俺なんてここにいちゃいけない」とか思っちゃうわけ。

編集O ちなみにセリフはどうやって覚えてるんスすかっ?

Mummy-D 「ゲームの<規則>」ではほぼ初の役者経験なのに3分くらいの長ゼリフがあったんだよ。受験の時を思い出して一生懸命考えた結果、耳で覚えることにしたの。でもその時は俺の一人語りだったんだよ。だけど、今回は役者さんとセリフの掛け合いをしなきゃいけなくて、それがまたすごく難しいんだ。相手が言ったことを受けて、こっちが返すっていう。だから相手のセリフも頭に入ってなきゃいけない。

編集O ラッパーの人って掛け合いのほうが得意そうスけどね。

Mummy-D ラッパーはいっぱい言葉を覚えられそうみたいな? それは大きな間違いだね。


ーーそうなんですか?

Mummy-D うん。ラッパーはリズムがないと何にも覚えられない(笑)。


■読者からの相談コーナー「眠れない夜はどうしたらいいですか?」

ーー実は今回からDさんに読者からの相談に答えてもらおうと思いまして。

Mummy-D いいね!


ーー記念すべき1回目は神奈川県在住の「ノイズとソウルとフリージャズ」(40歳)さんから。「漠然とした不安に襲われて眠れません。そんな夜はどう過ごしたらいいですか?」というものなんですが。

Mummy-D 速攻で酒を飲む。


ーーそう言われると思ってました(笑)。でもこの質問者さんはかなりお酒が強いらしくて、一時期ハードリカー系に走ってアル中一歩手前までいったらしいんですよ。だから酒以外のアンサーが欲しいです。

Mummy-D ……実は俺も結構眠れないことが多いんだよ。夜ご飯を食べた直後は眠くなるんだけど俺はその後に制作することが多くてさ。そこで仕事モードに入っちゃうともう完全に寝られなくなっちゃう。しかも体にそのペースが染み付いてるから、たまに早く寝ようと思っても寝られないんだ。


ーー体温の急激な上下動があるタイミングで人間は眠くなるんですよ。食後とかお風呂に入ってる時に眠くなるのは、そのせいみたいです。NHKの「ガッテン」で言ってたんで間違いないと思います。

マネージャーH 俺も眠れなくなることは多いですね。

Mummy-D どうしてんの?

マネージャーH 犬の散歩に行きます。犬の散歩って本当に無心になれるんですよ。俺なんかは本読んだりすると頭が回転して目が冴えてきちゃうんで、犬の散歩で無心になってから布団に入るとすぐに眠れちゃうんです。

編集O 確かに犬の散歩は無心になれますねっ。犬がいなかったらただも散歩でもいいッスよねっ。

マネージャーH テレビやネットを見るとダメなほうなんで、俺は散歩ですね。散歩じゃなくてもいいんだけど、何もしない時間を作るっていう。


ーー頭の回転数を落としていく方法ですね。

Mummy-D ……ゲームとかはダメなの?

マネージャーH 逆に頭が冴えちゃうんじゃないですか? 宇多丸は寝ないでやってますし。


ーー12時間とかやっちゃうみたいですね。

編集O ヤバいッスねっ(笑)。

Mummy-D ……う~ん。


ーーどうしたんですか?

Mummy-D ……この問題は俺じゃ解決できない!


ーーえっ?

Mummy-D 酒飲まずに寝る方法があるならむしろ俺が聞きたいくらいだもん。この連載はそういうのもアリでしょ(笑)。 


■読者からの相談コーナー 今更聞けないヒップホップ基礎知識編「リアルって何?」

ーーヒップホップでよく「リアル」って言葉が登場するんですが、あれはどういう意味なんですか?

Mummy-D (笑)。

マネージャーH (笑)。

Mummy-D リアルは難しい問題だね。言い出したのは90年代前半のUSのラッパーたちでさ。

当時は「アンダーグラウンドこそすべて」「ポップ&セルアウトは最悪」「クロスオーバーもNG」っていうアンダーグラウンド原理主義だったんだよ。

今はヒップホップというもの自体が超メインストリームだから、「(笑)」って感じになるけど本当にそういう時代があって。

マネージャーH 「Keep It Real」みたいな感じですよね。


ーーそれはUSのギャングの人たちが「ギャングじゃないのにギャングのことを歌うな」みたいな流れから出てきた言葉なんですか?

Mummy-D それもあると思うけどもっと音楽的だね。リアル=アンダーグラウンド=本物志向ってこと。

当時まだヒップホップがオーバーグラウンドにいってない時期だったから、搾取されることが多かったんだよ。ヒップホップの上積みを掠め取ってポップスとして売り出す、みたいな。

編集O まさに「クロスオーバーもNG」なんスねっ。

Mummy-D そんなの完全にセルアウトよ(笑)。コアなヒップホップのプレイヤーたちはそういうのがすごく嫌で、彼らには自分たちのヒップホップを守るような気持ちがあった。あの頃、本当の意味で成功している人は日本はもちろん、USにもいなかったし。


ーーDさんがまさにラッパーとして活動し始めた頃ですよね。

Mummy-D うん。完全に同時期。

だから当時「リアルじゃない」って言われることは死と等価だったんだよ(笑)。

編集O そんな感じだったんスかっ。

Mummy-D とはいえみんな何がリアルかは具体的に誰もわかってなかったんだよ。だけど「リアルじゃなきゃヤバいっぽい」っていう共通認識はあった。

そしてリアルという言葉が謎の神格化を遂げていったんだよ。


ーー今の日本では、ハスラーラップを経て「ドラッグを売ったことがないやつはハスリングのことを歌うな」とか「嘘はダメ」みたいなニュアンスで使われることが多いですよね。

Mummy-D 一周して普通の意味合いに戻ったんだろうね。

当時はリアル、アンダーグラウンド、ハーコーは三種の神器だったの(笑)。それだけ言ってりゃいいみたいな。しかもそれに疑問を投げかけることすら許されない雰囲気もあって。

だから俺は95年に「報復(PAY BACK)'95」って曲を出したら、ちょっとした物議を醸しちゃった。


ーーただリアルって言葉が形骸化したかっていうとそうではなくて、例えばISSUGIさんが所属するDOWN NORTH CAMPやDINARY DELTA FORCEのDLIP RECORDSは間違いなくリアルですよね。

マネージャーH うん、彼らはリアルですね。今でも「お前まじリアルだな」とか普通に言いますよ(笑)。現場の言葉として。

編集O まさに「いまさら聞けないヒップホップ基礎知識」ッスね(笑)。


■ライムスターMummy-DのPOP LIFE手帳とは

RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特の発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。

この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?


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