YUKSTA-ILLインタビュー「MCバトルがカッコ悪いものになって、戻る気が無くなっていった」(後編)

東海シーンの精鋭が集まるクルーRC SLUM/SLUM RCの一翼を担い、近年はそちらのリリースでも大いに注目を集めるほか、DJ RYOWやtha BOSS(THA BLUE HERB)、仙人掌のアルバムに客演を果たすなど活動が続くYUKSTA-ILLが、ソロとしては約5年ぶりのセカンドフル「NEO TOKAI ON THE LINE」を完成させた。ISSUGIや仙人掌、MASS-HOLEら同い歳のMC達で結成した1982sの動きも期待される彼に、これまでの歩み含め聞いた。 




――そこでアルバムの話をしたいんですが、そもそも今回の「NEO TOKAI ON THE LINE」の制作はどのように始まったんですか? 

 YUKSTA-ILL:ファースト出した時に、ここからどう歩むかは自分次第で、どういう表現をしたいか考えて、時を経てセカンドに行き着いたらいいね、みたいな話をATOS(ONE)としてたから、すぐセカンドっていう感じでは元々なくて。前のミックス(「MINORITY POLICY」)で一度リセットした感もあって、いよいよ新しいスタートっていう気持ちになりました。 

――MASS-HOLEさんしかり、PUNPEEさんやOlive Oilさんら、ファースト以降の交流も混ざったトラックメイカーの人選はそんな気持ちの表れと。それぞれとはどんなやりとりをしたんですか?

YUKSTA-ILL:MASS君とは1982sのみんなでアルバムを作ろうみたいな流れもあるんですけど、その流れでソロも作ってるから何曲か送ってもらって、「これキープしていい?」みたいな。PUNPEE君は「TOKYO ILL METHOD」用に送ってもらったトラックが全部良くて、その中から、もう一個予約してたのが今回の「LET’S GET DIRTY」ですね。Olive君とは鈴鹿に来た時にスタジオでいろいろトラック聴いてて、「これカッコいいっすね」って言ったら、「これでYUKのラップ聴きたいな」みたいなこと言ってくれて、できたのが「KNOCKIN’ QRAZY」で、もう一個の方(「RIPJOB」)はファースト出した後に福岡行った2012年ぐらいにOlive君の家にお邪魔してトラックをもらってたんですけど、やっと形にできました。 

――シンプルな声ネタ使いが印象的なアルバムタイトル曲はRAMZAさんのトラックですね。

YUKSTA-ILL:この曲が実は一番最後にできたんですよ。こういうのがやりたいっていうのを伝えて送られてきたトラックで、RAMZAとはリミックスではやってたんですけど、オリジナルは初めてで。彼にタイトル曲をお願いしようと早い段階で決めてました。ちなみにCampanellaとやってるSNKBUTNOの曲(「LOOK AHEAD OF US」)がそのひとつ前に出来た曲なので東海の人たちと制作を終えたって感じになって、なんかしっくりきました。SNKBUTNOも今は東京に住んでるけど、もともと四日市の住人で。 

――実際にアルバム全体の曲作りで意識したことは? 

YUKSTA-ILL:ファーストはこんなラップ、誰もできねえだろうぐらいの気持ちでやってたけど、今回は軸はぶらさず聴いてわかるってことを意識しました。 

――「HOOD BOND」で三重の地元について歌ってたりするのもそうした狙いの一つですか。

YUKSTA-ILL:そうですね。トラックを作ったGINMENは鈴鹿のマイメンでFACECARZっていう地元ハードコアバンドのベースもやってて、YOSKEIGHTって名前でラップもしてるんですけど、FACECARZサンプリングなんですよ、このトラック。だからこそ、鈴鹿のことを歌いたくなった。今まで地元の曲を作ったことなかったし、名古屋にはしょっちゅう足を運ぶけど、結局自分がいまだに住んでるのは鈴鹿で、俺にとって絶対的な土地なんですよね。スキット(「FCZ@MAG SKIT」)になってるのは鈴鹿や四日市の地元エリアでずっと続いてるハードコアイベントM.A.G SIDE CONNECTIONでのワンシーン、FACECARZのヴォーカルTOMOKI君はみんなの兄貴的な存在ですね。 

――「STILL T」からそのスキットを挟んで「HOOD BOND」という流れは地元に根を張る姿を映した流れともいえそうですね。さらに、「GIFT & CURSE」では、昨今のバトルの盛り上がりに対して抱える思いを隠さず曲にしてて。ご自身は2010年を最後にバトルから遠ざかってますね。 

YUKSTA-ILL:今の感じは、なんか違うなって思ってますね。俺的にはどんどんMCバトルがカッコ悪いものになっていって、戻る気があんまなくなっちゃってます。 

――逆に、そうした思いからアルバムになんらかフィードバックしたようなこともあったんじゃないですか? 

YUKSTA-ILL:今回のアルバムで自分がどんだけ韻が固いかってことをわからしたかったっていうのはあります。というのもフリースタイルで韻が固いって言われてる、俗に言う押韻スタイルの奴らの音源って、全然そのスタイルが投影出来てないと思うんですよね。それが残念というか、なんでやねんみたいなところがあって。バトルで韻固いのが飛び道具みたいに使われてる感じがして、そういうのじゃないんだけどなって思ってます。 

――なるほど。ともあれ、「GIFT & CURSE」のような曲があるかと思えば、アルバム最後のシークレットトラックに、ジャングル調でアッパーな曲があったり。 

YUKSTA-ILL:BIGGIE(THE NOTORIOUS B.I.G.)の「READY TO DIE」の最後に「SUICIDAL THOUGHTS」って曲があって、あれは最後に自殺しちゃう曲なんですけど。俺は自殺はしないけど、アルバムのラストの曲(「CLOSED DEAL」)はそれに近いコンセプトで作った。でもそれで終わったらみんなに心配されちゃいそうなんで、俺元気ですみたいなやつ録ろうっていうのがありましたね(笑)。 

――ただ、その「CLOSED DEAL」からアルバム最初の「NEW STEP」に戻ると、ストーリーがつながってるようにも聴こえますよね。消え入りそうな状況を打破してまた新たなアルバムに踏み出すっていう。 

YUKSTA-ILL:そうなんですよ。初めはそのつもりだったんですよね。GINMENが、「NEW STEP」のトラックをアタマにしてこれ(「CLOSED DEAL」)を最後にしたアルバムをYOSKEIGHT名義で作ろうとしてたんですけど、やっぱ違うってなってたんで、そのアイディアもらって、俺のアルバムのアタマとケツで使うことになって。だから「CLOSED DEAL」で終わってアタマに戻してもらっても、それはそれで正解です。シークレットの曲は、鹿児島にライヴで行った時にOWL BEATSからトラックを何曲かもらった中の1曲で、すげー疾走感のある爽快なトラックだな、って。ただトラックはいいけどアルバムで入れるところがなくて、ふと「CLOSED DEAL」の後にシークレットとして入れたら面白いんじゃないかなって。 

――たしかにシークレットトラックは今回のアルバムのカラーからは外れる一曲ですもんね。それ含め本作はヴォリュームの面でも十分なアルバムかと。 

YUKSTA-ILL:今の時代、10曲から12曲の構成が多いけど、俺の好きなアルバムは15曲から18曲がっつり入ってるみたいな、聴いてて、うわー長いって思う奴がいるかもしんないけど。でもそれこそラップアルバムだと俺は思ってて、ファーストからセカンドまでに5年の時を経たっていうのもあるし、15曲くらい欲しいなとは考えてました。 

――あえていうと本作がどんなきっかけになればいいと思いますか? 

YUKSTA-ILL:今回のアルバムで三重にスポットが当ったらなと思います。メディアは名古屋を中心に〈NEO TOKAI〉って紹介してますけど、中々三重までは来ないんですよね。もちろん名古屋の仲間も大切だけど、東海各地がもっと注目されていいと思う。この地方が再燃してきてる段階でこれを提示するのも意味あることかなあと思ってます。 

――地元について歌ったことしかり、やっぱりそこはキャリアを重ねてきたからこそ芽生えてきた考えでもあるんでしょうね。 

YUKSTA-ILL:昔は俺は俺と思ってたんですけど、去年あたりから県外で知り合ったかっこいい人達を地元のみんなにも見てもらいたくてイベント始めたりとか、ちょこちょこ考えてます。続けてやってる奴らももう若くない歳になってきてて。でもそこからすっぽり空いて10代とか20代前半の子達が最近イヴェント来たりしてるから、その子らもいい感じにイベント呼んであげたいなって思えるようになった。そんな年齢になりましたね(笑)。 

――本作についてさらに伝えたいことは?  

YUKSTA-ILL:今回のアルバムは(アレン・)アイバーソンのバスケの殿堂入り記念が裏コンセプト。アルバムの要所要所に入ってくる声は全部アイバーソンです。なんならこのアルバム、本人に誰か届けてほしいぐらいなんですけど(笑)。自分がラップ始めたきっかけがバスケで、アイバーソンの存在がすごくでかくて。今回ゼロからもっかいリスタートって感覚があったので、原点回帰的な気持ちになって考えてたらそこに行き着いて、アイバーソンが殿堂入りしたのも相まってそうなった。

――それぐらい彼やバスケに思い入れが強いわけですね。 

YUKSTA-ILL:これ言っとかないとたぶん誰もわかんないから言っとくんですけど、ブックレットのSPECIAL THANKSは、アイバーソンが殿堂入りした時に彼のアイドルだったマイケル・ジョーダンへ向けた感謝のスピーチを文章に落としこんで、マイケル・ジョーダンの部分をアイバーソンに置き変えて俺が書いたんですよ。そういうギミック的なところもあります。 

――そこも併せてチェックですね。本作の後は1982sのアルバムということになりますか? 

YUKSTA-ILL:できたらと思ってます。あとはみんなに聞いてください(笑)。元々(1982s)はMASS君とISSUGI君がやってて、P-VINEの40周年イベントの時に自分も誘ってくれて。それが嬉しかったし、一緒にやってすげえよくて勢いでアルバム作ろうみたいになって。みんなそれぞれのプロジェクトがあって難航してるけど、俺はいつでも作りたいっすね。あと1年半ぐらい前に「URADDICTIONARY」っていう作品が出来てて、それを何かの形で出したいなっていう。それは2009年に流通通さないで出した「ADDICTIONARY」(ATOSONEとの共作)をOWL BEATSがリミックスしたものなんですけど、それプラス何かで動きが出来たらなって話してます。  


TEXT:一ノ木裕之

PHOTO:小原啓樹

YUKSTA-ILL

「NEO TOKAI ON THE LINE」(発売中)

【TRACK LIST】

01. NEW STEP 

02. KNOCKIN' QRAZY 

03. STILL T 

04. FCZ@MAG SKIT 

05. HOOD BOND 

06. OVERNIGHT DREAMER 

07. LET'S GET DIRTY / feat. SOCKS 

08. WEEK-DEAD-END 

09. RIPJOB 

10. GOTTA GO 

11. GIFT & CURSE 

12. TO MY BRO 

13. LOOK AHEAD OF US / feat. Campanella 

14. NEO TOKAI ON THE LINE 

15. CLOSED DEAL



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